全国の交通事故の発生件数、負傷者数ともに減少傾向にあるものの、2025年の全国の交通事故死者数は2,547人、負傷者数は33万8,294人となっています。交通事故被害の深刻さは依然として大きな社会問題であり、また損害賠償を巡る紛争も一層複雑化しています。こうした問題を解決するため、公益財団法人交通事故紛争処理センターでは、中立公正の立場から、簡易で迅速な手続きで、専門家である相談担当弁護士による和解斡旋等を無償で行っています。日本損害保険協会はその取組みを支援しており、今回、竹内常務理事、村田総務部長、中込弁護士に交通事項無料相談事業の特徴、利用時の注意点などについて伺いました。
交通事故に遭ったとき、損害賠償の交渉は被害者にとって大きな負担です。保険会社とのやり取りや法的な知識が求められる場面も多く、納得のいく解決が難しいこともあるでしょう。そんなとき頼れるのが「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」です。
同センターは、交通事故による損害賠償問題を迅速かつ公正に解決することを目的として1974年に発足しました。1978年には組織を拡充し、総理府(現在の内閣府)所管の「財団法人交通事故紛争処理センター」へと発展。2012年に公益財団法人へ移行し、公共性と中立性を一層強化しています。
同センターの常務理事である竹内氏によると、「交通事故は社会的に深刻な問題であり、被害者が保険制度や法律知識に詳しくないため、適正な賠償を得られずにご不満が生じるケースも少なくないと思います。裁判だと時間も費用もかかり、利用しにくいということもあります」といいます。こうした背景から、同センターは公正・中立な第三者による裁判外の紛争解決機関(ADR)として、無料で法律相談・和解斡旋(あっせん)・審査を提供しています。
同センターの相談件数は累計で約27万件に達し、そのうち約19万件で示談が成立し、直近10年間では約88%で示談が成立しています。自賠責運用益拠出事業は同センターの事業を支援し、貴重な運営財源として使われています。

交通事故紛争処理センターの利用は、まず電話による予約の申込みから始まります。相談担当者(弁護士)との面談を予約し、法律相談を受けたうえで、原則として和解斡旋手続きへと進みます。初回は電話により相談を受けることもできます。
拠点は全国に11カ所。遠方の申立人(被害者)にも電話で対応しますが、申立人の居住地や事故発生地により申込先が決められているため、Webサイトなどで確認するとスムーズです。
和解斡旋では、申立人と加害者側の契約している保険会社が出席し、弁護士が中立の立場で話し合いを進めます。合意に至れば示談成立です。
和解できなかった場合は、申立人は審査を申立てることができ、法律学者、裁判官経験者、弁護士の3名による審査会において改めて当事者から説明を受け、意見を聴収したうえで合議により裁定(結論)が出されます。加害者側の保険会社などは審査結果を尊重することになっており、申立人が審査員による裁定に同意すれば、和解が成立し賠償金支払いなどの手続きが行われます。紛争解決のための一連の相談や手続きは無料で利用できます。

「人身事故の場合、加害者側の保険会社から損害賠償額を提示されたものの、休業損害の一部を否定されることや、傷害慰謝料が低いことなどに不満を感じることは珍しくありません」と話すのは同センターの相談担当者である中込弁護士。こういったケースでは、弁護士に委任することも有力な選択肢となりますが、中立的な場第三者機関を利用することができれば、自分で対応したいと考える人もいるでしょうし、また、できるだけ弁護士費用などを節約したい人もいると思われます。
このような場合に交通事故紛争処理センターを利用すれば、中立・公正公平な意見を参考にでき、かつ、被害者の出費も最小限に抑えられることになります。また「弁護士は幅広い事件を扱っているため、必ずしも交通事故案件に強いとは限りません。同センターが嘱託している弁護士は交通事故案件を多く扱っており、専門性が担保されているため安心感を持って利用できます」と、中込弁護士は同センターのメリットを強調します。

2024年度の交通事故紛争処理センターの新受件数は5,073件。このうち和解件数は4,470件で、和解が成立した割合は88%以上でした。
同センターの事業には、法律相談や和解斡旋のほかに、交通事故による損害賠償に関する調査研究活動もあります。裁判所が示した判決や、同センター審査会の裁定例を独自にデータベース化し、和解斡旋や審査に活用しており、同センターの重要な活動のひとつです。
2024年度末には「新判例紹介検索システム」で1万9,794件、「裁定例検索システム」で4,949件がデータベース化されました。こうした調査研究活動にも、自賠責運用益拠出事業が有効に活かされています。
交通事故紛争処理センターを利用する際には、いくつかの注意点があります。例えば、紛争解決までの相談や手続きは無料ですが、医療記録の取得費用や交通費、資料作成費などは自己負担となります。
また、同センターで取り扱えない紛争があることにも注意が必要です。事故の相手方が自動車(原動機付自転車を含む)によるものでない場合、例えば、自転車と歩行者、自転車と自転車の事故に伴う損害賠償に関する紛争は対象外となり扱いません
なお、利用前に事故の損害額が確定していることも条件となります。つまり、治療中や後遺障害の認定手続きが終了するまでは、利用の申し込みができません。これらの注意点をよく理解し、誠実に対応することで、円滑な紛争解決につながるでしょう。
同センターが行った利用者アンケートによると、最終的な示談金の額について「妥当」あるいは「許容範囲」と答えた人は92.9%。交通事故で困っている人がいたら「交通事故紛争処理センターの利用を勧める」と答えた人は96.1%にのぼり、利用者からはおおむね高い満足度が示されています。交通事故に関する紛争を適切に処理する同センターの活動を通じて、自賠責保険の運用益拠出事業は多くの自動車事故被害者を力強く支えているのです。
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