日本意識障害学会「意識障害を考える会」・桑山雄次世話人にインタビュー

2022年度 自賠責運用益拠出事業/遷延性意識障害者の家族の介護に関する講演会等開催費用補助

脳卒中や事故で脳が損傷し、長期間にわたって意識が戻らない人も多い「遷延性意識障害」の患者のうち、交通事故が原因の新規患者は年に三百数十人、つまり1日に約1人の割合と推計されています。自力で歩行や会話ができず、24時間体制での看護、介助が必要なため、家族の負担軽減が大きな課題となっています。家族への情報提供や医療従事者との意見交換の場として、日本意識障害学会は家族会とともに各地で講演会を開催しており、こうした家族会の活動を支援しています。同学会の「意識障害を考える会」世話人で、「全国遷延性意識障害者・家族の会」の代表でもある桑山雄次さんにお話を伺いました。

大きな家族の負担

 遷延性意識障害は、自力で移動や食事ができない、意思疎通できない、などの6項目が3カ月以上続いた場合と定義されています。明確な応答はないが本人は分かっていると思われるケースも多く、実感として「意識はある」と考えられる人は少なくないと思います。「植物状態」と言われることもありますが、人間の在り方としての表現が悪いことや実態に合わないイメージを与えるため、海外では覚醒しているが応答できない「無反応覚醒症候群(UWS)」と呼ばれることも多くなってきました。
 交通事故の場合、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)の専門病院である療護センターが全国に4カ所、委託病床が7カ所あります。ただ入院期間は3年以内となっており、十分に回復せず結果として後遺症が重い場合は、在宅あるいは長期療養型病院や施設に入院・入所となります。寝たきりの障害者なので全面的な介助が必要で、介護する人や家族は大変としか言いようがありません。たんが気管につまらないよう頻繁に吸引し、おなかに開けた穴に通した管で1日3回の食事、6~8回程度の水分補給。他にも風呂に入れたり、関節が固まらないよう体を動かしたりと、ずっと何らかの介護が必要になります。

情報交換、つながりの場

 遷延性意識障害の患者は全国で約5万5千人とされていますが、このうち交通事故が原因の人がどのくらいか、正確な数は分かっていません。どのような転帰をたどられたのか、存命なのか、どういう状態なのか、という統計もないのが実情です。以前は県庁に交渉に行っても「そんなに症状が重い人が在宅でいるのですか」と驚かれ、経管栄養やたん吸引の実態が分かってもらえない状況でした。
 医師中心の日本意識障害学会が、家族への社会的支援が必要との方針を打ち出し、2002年には家族も参加した「意識障害を考える会」が学会内にできました。2004年には家族会の全国組織が発足。現在は損保協会の助成により、学会と家族会の共催で年に5~7回程度、講演会を開いています。講師は医師、看護師、福祉やグループホームなどの関係者です。家族が最新の医療情報を得られる機会であり、医療従事者にとっては家族のニーズや福祉の現状を知る情報交換の場でもあります。孤立していた家族が講演会を通じてつながり、東海地域、北海道、九州と次々に家族会ができました。2022年11月に静岡市で開いた講演会は、静岡県の家族会の結成式を兼ねたものになりました。被害者支援でも大きな力になっています。

ヘルパー増員が急務

 私の次男は1995年、小学2年生の時に交通事故に遭い、頭部を強打し何とか一命をとりとめたのですが、残念ながら寝たきりになりました。在宅で週3回、デイサービスに通い、ヘルパーに日曜日を除き多い日で6時間来てもらっています。本当はもっと来てほしいのですが、報酬が決して高くなく3K(きつい、汚い、危険)と言われ、ヘルパーが足りないのです。特にたんの吸引など医療的ケアができるヘルパーが圧倒的に少ない。報酬をもっと高くするとともに、苦労ばかりでなく価値ある仕事だと発信することが必要です。
 ショートステイで預けた場合に夜中もきちんと面倒を見てくれる仕組みや、重度でも受け入れてくれるグループホームがほしいですし、再生医療の進歩、効果的なリハビリ方法の開発も期待しています。次男が事故に遭ったとき39歳だった私は67歳になりました。自分たちでいつまで介護できるか分かりません。遷延性意識障害については、医療の必要性のみならずヘルパー不足も含め日本全体の重度障害者の社会保障の問題と位置付けて活動していこうと考えています。