世界では交通事故や犯罪、戦争などで、多くの貴重な命が理不尽に奪われています。遺族は悲嘆に暮れながらも、命の大切さに思いを巡らせる社会の実現を願っています。日本損害保険協会が活動を支援している遺族や支援者たちでつくる「いのちのミュージアム」は、展示会や学校での授業、遺族の話の傾聴などを通じ、加害者も被害者も生まない、命が守られる社会を目指しています。2000年4月、大学に入学したばかりの一人息子を飲酒、無免許、無車検の暴走車に奪われた同法人代表理事の鈴木共子さんと、理事の中土美砂さん、事務局の土屋由美子さんにお話を伺いました。
当法人は2001年3月に交通事故遺族16人で任意団体「生命(いのち)のメッセージ展」として発足し、2010年9月からは東京都日野市の廃校となった小学校(現・市立百草台コミュニティーセンター)を拠点にしています。ここの常設展示では、遺族が手作りした犠牲者の等身大パネル151体が迎えてくれます。胸の部分に本人の写真や家族の言葉を貼り、足元には人生を支えた靴と、永遠の命を刻む秒針だけの時計を置いて、生きたくても生きられなかった人たちの思いを伝えているのです。パネルとなって命の大切さを訴える犠牲者たちを、私たちは「メッセンジャー」と呼んでおり、来場者が生きていることを実感し、遺族は安心して泣きも笑いもできる場となっています。
常設展示の他に、メッセンジャー30体が出向き映画上映や遺族の講演を行う小規模な巡回展「いのちの授業」を、全国各地で開催しています。開催場所は小中高校や大学、自動車・運輸関係の企業などで、約120カ所の刑務所、少年院も二巡目に入りました。参加者に体験後に書いてもらう「誓いのしおり」には、「飲酒運転は絶対にしない」「いじめをしない」などの記載があり、他者への思いやり、生きることへの希望などの気付きが読み取れます。展示会と並行して行った刑法改正署名の結果、2001年に危険運転致死傷罪が新設されたのも、活動の成果の一つと言えます。
交通事故被害者の相談先はいくつもありますが、気持ちまで聞いてくれるところが少ないことが課題となっています。相談のニーズは高く個人的に相談を受けている人も少なくないため、私たちは被害者や遺族の話に耳を傾け支え合う「グリーフケア」にも取り組んでいます。2020年度は、被害者支援に関わっている人やこれから携わろうという人を対象に、実践につながるオンライン講座とグループワークを開催しました。ただ、ビジネス化できる事業ではないので、助成を受けながら手弁当でやらざるを得ないのが現状です。行政の支援だけでなく、当事者の共感を得やすい遺族による支援も必要で、それを当事者が選べる社会にならないといけないと考えています。