交通事故は被害者の家族に大きな悲しみと苦しみをもたらします。特に一家の働き手が亡くなったり重い障害が残ったりすると、生活基盤が脅かされ、お子さんの教育環境が損なわれることにもなりかねません。
遺族に損害保険会社などから支払われる賠償金などの中から一定額を拠出してもらい、それを運用して遺児に育成資金を給付する事業を支援しています。
基金には1980年からこれまでに3,800人以上の交通遺児が加入し、養育資金を受け取っています。子どもたちの未来を守る活動を続ける基金の菅野孝一専務理事にお話を伺いました。
基金に加入できるのは、自動車事故で亡くなった方のお子さん(16歳未満)です。拠出金は加入したときの年齢に応じて240万~700万円。これに国の補助金や損保協会など民間からの援助金を加え、公社債などで安全かつ確実に運用しています。
加入者は19歳に達するまで月額3万2,000~7万円を3カ月ごとにまとめて受け取り、総額は約250万~1,070万円になります。現在のような低金利だと銀行に預けてもほとんど増えませんが、基金の給付は安定的かつ確実に続きます。
6歳、12歳、15歳に達し入学や就職するときにお祝い金として5万円、19歳になったときにも3万円の給付があります。年4回発行の広報誌「Smiles(スマイルズ)」に、お便りや作品を載せたりするなど精神的な支援にも当たっています。
育成基金事業とは別に、支援給付事業も行っています。基金に入っていない交通遺児や、重い後遺障害を負った人のお子さんがいて、生活が特に困窮している家庭を対象に、越年資金や入学・進学支度金、災害などの際の緊急時見舞金を支給するものです。見舞金は昨年、台風被害を受けた福島県の家庭などに計4件支給しました。
全国規模の支援団体にはほかに、高校生、大学生を対象に無利子で奨学金を貸与する「交通遺児育英会」などがあります。私たちの財団は加入できるのが中学生までなので、それ以上の年齢の方にはそちらを紹介するケースもあります。
2019年の交通事故による死者は3215人で、3年連続で戦後最少を更新しました。事故が減るのはいいことですが、19年度の新規基金加入者は1月末現在で36人で、支援を必要とする交通遺児はもっといるはずです。
基金についてもっと知ってもらおうと、数年前から全国の全ての警察署に基金のリーフレットを置いていただいています。昨年には損害保険会社の担当者の集まりで説明し、各社の支払担当の方にも基金の仕組みを知っていただけるよう働きかけました。この制度があることを知らなくて加入できなかったという人が一人でも減って、加入者が増えてほしいと願っています。
「Smiles」20年新年号には、小学3年生のときに父親を亡くし大学生になった加入者からのお便りが載っています。「私が大学に行けるのは、たくさんの人の支えがあるから。今度は支える側になれればと思います」。そんなお便りを読むと、基金をやっていて良かったと思います。